しがらみのない新作映画評

某映画ライター。主に公開前の新作映画について書きます。ネタバレなし。★の数は個人的な評価です。

現実は映画ほど甘くない『アメリカン・アニマルズ』

はたして、映画を真似した犯罪は成功するのか。

当然、『レザボア・ドッグス』や『オーシャンズ11』のようにスマートにいくはずがない。個人的にも、犯罪をあまりカッコよく描くのはどうなのかなと、以前から思っていた。

現実とフィクションを混同してしまうのは、ある種、若者らしい性質ではある。しかし4人の大学生にとって、その代償は大きすぎるものだった。

アメリカン・アニマルズ』は、犯罪映画を参考にした実際の事件を映画にした、という逆輸入みたいな構造をした犯罪映画だ。モデルになったのは、2004年にケンタッキー州の大学で起こった、1200万ドルのビンテージ本の強奪実験。犯行を企てたのは4人の大学生だが、別に生活に困っていたわけではない。単に刺激がほしかっただけという、しょうもない理由だ。だから彼らに同情の余地なんてまるでない。

大学生たちが仲間を見つけ、犯罪の計画を練り、準備を進めていく。その描かれ方は、正当な犯罪映画のそれだ。彼らの妄想の中では、スタイリッシュで完璧な犯罪計画ができあがっている。だから観ているこちら側も犯行が上手くいくように感じてしまうのだが、実際にやっていることといえば、大学のPCで犯罪のやり方を検索したりと、思いっきり素人だ。

ユニークな点としては、ところどころで事件の大学生たち本人が登場して、当時を振り返っていく。視点が違えば見える景色も違う。証言者によって微妙に認識は違っている。何が真実なのか。この物語はどこまで信じていいのか。映画に向き合う、こちら側の姿勢も揺さぶられる。

ところで作中の音楽が素晴らしく、レナード・コーエンの「Who By  Fire」が特に秀逸。「火に焼かれる者」「試練を受ける者」といった意味だろうか。示唆的だ。

youtu.be

さて、最初の問いに戻る。映画を真似した犯罪は成功するのか。もちろん頭の中でイメージしていたとおりにいくはずはないのだけど、彼らはどのような“現実”と向き合うことになるのだろうか。 

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